Online Novel 「衝撃の事実」

<ご注意!> 

  この内容はすべてフィクションであり、登場する個人名・団体名・地名等は実在のものと関係ありません。
 


 

プロローグ
 

  平成9年12月のある晴れた土曜日、私は、中央高速道を東へ向かっていた。運転している車は、ホンダ
  シビック。もう買ってから7年目に入り故障がちではあるが、まだまだ愛着を持っているエンジンはよく回る。
 いい車だ。で、向かっている場所 は、東京・調布。今日の情報提供者 と会うためである。道路は東京に入
 る前までは順調に流れたが、八王子の料金所を過ぎたあたりから混雑し始め、調布出口のところでは2キ
 ロほど渋滞していた。情報提供者とは昼の12時に調布の駅の近くにある東海銀行の前で待ち合わせてい
 る。もう時計の針は12時5分前といったところだ。

 「・・・・参ったな、待ち合わせに間に合うだろうか。」

 彼とは、共通の知り合いの紹介で情報を提供してもらえることとなった。私との面識はまだない。

 
 「くそ、最初っからいきなり遅刻だなんて・・・・・・・。」
 

 
  結局、待ち合わせ場所には20分ほど遅れてしまった。しかし、遅れたおかげもあって情報提供者はすぐ
 に分かった。表情が明らかにいらいらしていたからだ。

 「すいませーん、遅れてしまって。」私は平謝りに謝った。

 「来ないかと思ったよ。ま、でも名古屋から車で来たから無理もないか。さ、じゃあ昼飯でも食べながら話
 そうか。」

  平板な言葉づかいなので、一見怒っているのかそうでないのかわからない。私はとりあえず、彼が「話
 そう」といってくれたことにほっとした。
 ・・・・・・私は車に彼を乗せ、彼の指示に従い甲州街道を東に向かう。目的地はすぐあった。

 「あ、そこだよ、右に曲がれるかなあ、だめなら迂回してくれ。」
 
  彼の指定した店は、アンナミラーズ調布店だった。土曜の昼下がり、学生風のアベックしかいないこの
 店で、彼へのインタビューは始まった。
 


インタビュー

  「ここはランチっていってもこんなハンバーガーぐらいしかないんだ。まだここの近くにある天狗のほうがまし
 だよ。でもここならがらがらだし、ゆっくり話が出来る。あ、それから飲み物はホットコーヒーを頼むようにね。」

 ホットコーヒーを頼めばお代わり自由なので何時間でも話が出来るから、ということなのであろう。

 「ご注文は何になさいますか?」

 彼の指定どおりハンバーガーにコーヒーをつけ、デザートはショートケーキを頼んだ。・・・・・それにしてもこの
 店はウエイトレスの制服がなんかエッチだ。目のやり場に困る、・・・・・というより、ついついじっくり眺めてしま
 う、というのが本音のところだ。

 「・・・・なんかこのお店の制服・・・・・すごいですねえ。」

 「ははは。東京はいいだろう。でもここの親会社は井村屋だよ。」

 「へえ、井村屋って名古屋が本社のあんまんとか作ってるあの会社ですかあ。うーん、じゃあなんでこの店っ
 て名古屋にないんだろう。残念だなあ。・・・・・・・っと、そうだ。本題を忘れるところでした。今日はあなたの前
 の体験されたお話を聞かせていただける、という んで私は来たんです。・・・・・」
 

  その男の名は若林進と云った。歳は32歳だそうだ。彼は新潟県のある飯山線沿線の町の高校を出て、1
 年間浪人した後、関西にある総合大学に入った。そこで彼は軽音楽に熱中するうち、単位を落しがちとなった
 が、何とか有名でない教授の研究室であるもののなんとか大学院に進学できた。

 「あのころは仕事なんてものは奴隷ががするものだ、なんて言っててね。就職なんてまっぴらごめんだったね。」

 
 「なるほど。大学院生活はどうでした?」
 

 「まあ、楽しかったような楽しくなかったような。俺の研究室は人気のないところだったから、ゼミ生はおれ以外
 はほかの大学から来たやつとか中国からの留学生ばかりだったね。」

 「へえ・・・。大学院、というと普通自分の大学からそのまま進学する、というイメージがありますが・・・。」

 「普通の研究室はそう。でも俺の行ってた学科は別に専攻をまじめに勉強したい、という奴はほとんどいなくて、
 あの大学に入りたい、という奴が一番合格しやすい石油化学専攻を目指す、といわれているんだよ。」

 「で、大学院もこのまま残ろうか、就職しようかって時に来た。・・・・?」

 「はっきり言って就職なんてまっぴらごめんだったけどね、でもほかの大学から進学してきた奴、ってのは優秀
 なんだよ。しかも真面目と来てるからなあ。教授は外部から来た奴を残るように説得していて、結局俺には声
 がかからなかった。」

 「で、就職しよう、ということになった。・・・・?」

 「そう、教授から推薦してもらって企業を受けたんだけどさあ。でもあまりにもその会社がさえないところでさ。」

 若林は就職活動の話を延々話し始めた。今日は彼が就職した会社の話を聞くつもりであったのだが、本題に
 入る前にすでにラン
 チは食べ終わり、まもなくするとデザートのケーキが運ばれてきた。若林が頼んだデザートはミルフィーユだっ
 た。初対面の、それも男を前にしてよくそんなデザートをたのむなあ、と驚く間もなく彼はぼろぼろとこぼしなが
 らミルフィーユを口にした。

 「・・・・・・で、どこまで話したっけ。」

 「結局教授の推薦する会社を断ってみたものの、一般公募での申し込みはことごとくだめで、やけになって片っ
 端から学校の求人票にある会社に電話をかけたってところまでです。」

 「そう、それでやっぱり電話をかけてみてもメーカーはまったくだめでね。多少でも反応がよかったのはコンピュ
 ータのソフト関係だけだったね。」

  彼は大学での選考は石油化学の選考だ。特に彼の研究室の卒業生は石油・エネルギー業界へほとんど
 就職していた。ソフト業界は、基本ソフト開発者側の意向に振り回され、また新しい業種だけに年功序列の企
 業体系になっていないところが多く、将来の生活に不安な面があるといって彼の通う大学では敬遠されていた
 が、今やそんなことは言っていられなくなっていた。

 「・・・・・・その求人票で就職先を見つけるわけですね。」

 「そう、それが俺の失敗の始まりだった。・・・・・・・」

 
 「で、その会社の名前は?」

 「・・・・・・・・・・・・・・名前は・・・・・にっ」
 
 
  「あの、コーヒーのお代わりはいかがですか?」

 
  突然の店員のオーダーに二人はどっきりした。私は、一瞬この店の中にいる人のすべてが我々の話に耳を
 立てて聞いているような錯覚を覚えた。

  ちらっと彼の方を見た。彼もまた、焦っているようだ。しかし、彼の目はしっかりと店員の胸元を見ている。

 
 「うーん、ここではこれ以上の話はここではちょっと・・・。」

 
 「そうですか、じゃあ場所を変えましょうか?」

 「まあ、せっかくコーヒーも頼んだことだし、もうちょっとゆっくりしていこう」
 

 ・・・・結局彼は、この店を選んだのは、単に自分が来たかっただけのようだ。

 「若林さんは今は仕事は何をしているんですか?」

 「うん、大泉でプレス工をしているよ。あそこは外国人の労働者が多いところでさ、俺といっしょに働いているや
 つもみんな外人でさ。」

 「え、なんでそんなわざわざ大泉で働かないといけないんですか?東京でもいくらでも働ける場所があるのに。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 
  沈黙が続いた。彼が今大泉にいることと、彼が勤めていた会社とは何か関係があるのだろうか。彼の身に、何
 がおこったのであろうか。よくみると、彼の髪の毛はところどころ薄くなっているようだ。遠まわしに聞くと、彼はそ
 の最初に就職した会社にいたときに薄くなった、と言っていた。私は彼の話の続きを一刻も早く聞きたくなった。
 
 



 
 
 「・・・・・・・そろそろ行こうか。」

 「あ、はい。」

  我々は車で出た。車は甲州街道を新宿方面に向かう。しばらくすると彼が再び重い口を開き始めた。彼の勤めていたと言う会社は
 なんとかシステムとかいう、聞いたこともないような会社であった。その会社は本社が泉岳寺にあり、支社が大阪と川崎、それに筑波
 にあるそうだ。
 
 
 以下、次号に続く。 乞うご期待
 

 
 

exit home mailboxmail