>>>ドラえもんの最終回<<<
 
 

のび太とドラえもんに別れの時が訪れます。それは、なんともあっさりと.
..。
のび太はいつものように、宿題をせずに学校で叱られたり、 はたまたジャ
イアンにいじめられたり、時にはスネ夫の自慢話を聞かされたり、 未来の
お嫁さんであるはずのしずかちゃんが出来杉との約束を優先してしまう、な
どなどと、とまあ、小学生にとってはそれがすべての世界であり、 一番パ
ターン化されてますが、ママに叱られたのかもしれません。 とにかく、い
つものように、あの雲が青い空に浮かんでいた、天気のいい日であることは
間違いないことでしょう。
そんな いつもの風景で、ドラえもんが動かなくなっていた...。
当然、のび太にはその理由は分かりません。喋りかけたり、叩いたり、蹴っ
たり、しっぽを引っ張ってみたりもしたでしょう。なんの反応も示さないド
ラえもんを見てのび太はだんだん不安になってしまいます。付き合いも長く
、 そして固い友情で結ばれている彼ら、そしてのび太には動かなくなった
ドラえもんがどういう状態にあるのか、小学生ながらに理解するのです。そ
の晩、のび太は枕を濡らします。

ちょこんと柱を背にして座っているドラえもん...。

のび太は眠りにつくことができません。泣き疲れて、ただぼんやりしていま
す。無駄と分かりつつ、いろんなことをしました。できうることのすべてを
やったのでしょう。 それでも何の反応も示さないドラえもん、泣くことを
やめ、何かしらの反応をただただ、 だまって見つめ続ける少年のび太。 当
然ですがポケットに手を入れてみたり、スペアポケットなんてのもありまし
たが動作しないのです。そして、なんで今まで気付かなかったのか、のび太
の引き出し、そう、タイムマシンの存在に 気がつくのです。ろくすっぽ着
替えず、のび太はパジャマのまま、22世紀へとタイムマシンに 乗り込み
ます。

これですべてが解決するはずが...。

のび太は、なんとかドラミちゃんに連絡を取り付けました。しかし、 のび
太はドラミちゃんでもどうにもならない問題が発生していることに、この時
点では気が付いていませんでした。いえ、ドラミちゃんでさえも思いもしな
かったことでしょう。 「ドラえもんが治る!」、のび太はうれしかったで
しょう。せかすのび太と状況を完全には把握できないドラミちゃんは とに
もかくにも
20世紀へ。
しかしこの後に人生最大の落胆をすることになってしまうのです。 動かな
いお兄ちゃんを見て、ドラミちゃんはすぐにお兄ちゃんの故障の原因がわか
りました。 正確には、故障ではなく電池切れでした。 そして電池を交換す
る、その時、ドラミちゃんはその問題に気が付きました。
予備電源がない...。
のび太には、なんのことか分かりません。早く早くとせがむのび太に ドラ
ミちゃんは静かにのび太に伝えます。 『のび太さん、お兄ちゃんとの思い
出が消えちゃってもいい?』 当然、のび太は理解できません。なんと、旧
式ネコ型ロボットの耳には電池交換時の予備電源が内蔵されており、電池交
換時にデータを保持しておく役割があったのです。そして、そうです、ドラ
えもんには耳がない...。のび太もやっと理解しました。そして、ドラえ
もんとの思い出が 甦ってきました。初めてドラえもんに会った日、数々の
未来道具、 過去へ行ったり、未来に行ったり、恐竜を育てたり、海底で遊
んだり、 宇宙で戦争もしました。鏡の世界にも行きました。どれも映画に
なりそうなくらいの思い出です。ある決断を迫られます...。ドラミちゃ
んは、いろいろ説明をしました。 ややこしい規約でのび太は理解に苦しみ
ましたが、 電池を交換することでドラえもん自身はのび太との思い出が消
えてしまうこと、 今のままの状態ではデータは消えないこと、 ドラえもん
の設計者は、設計者の意向で明かされていない(超重要極秘事項)ので連絡
して助けてもらうことは不可能であるという、 これはとっても不思議で特
異な規約でありました。ただ修理及び改造は自由であることもこの規約に記
されていました。のび太、人生最大の決断をします。のび太はドラミちゃん
にお礼を言います。そしてドラえもんは「このままでよい」と一言、告げる
のです。 ドラミちゃんは後ろ髪ひかれる想いですが、何も言わずにタイム
マシンに乗り、去っていきました。 のび太、小学6年生の秋でした。

あれから、数年後...。

のび太の何か大きく謎めいた魅力、そしてとても力強い意志、どこか淋しげ
な目、眼鏡をさわるしぐさ、 黄色のシャツと紺色の短パン、しずかちゃん
が惚れるのに時間は要りませんでした。 外国留学から帰国した青年のび太
は、最先端の技術をもつ企業に就職し、そしてまた、めでたく しずかちゃ
んと結婚しました。そして、それはそれはとても暖かな家庭を築いていきま
した。 ドラミちゃんが去ってから、のび太はドラえもんは未来に帰ったと
みんなに告げていました。そしていつしか、誰も「ドラえもん」のことは口
にしなくなっていました。しかし、のび太の家の押入には「ドラえもん」が
眠っています。あの時のまま...。のび太は技術者として、今、「ドラえ
もん」の前にいるのです。小学生の頃、成績が悪かったのび太ですが、彼な
りに必死に勉強しました。そして中学、高校、大学と進学し、かつ確実に力
をつけていきました。企業でも順調に、ある程度の成功もしました。 そし
てもっとも権威のある大学に招かれるチャンスがあり、のび太はそれを見事
にパスしていきます。 そうです、「ドラえもん」を治したい、その一心で
した。 人間とはある時、突然変わるものなのです。それがのび太にとって
は「ドラえもんの電池切れ」だったのです。 修理が可能であるならば、そ
れが小学6年生ののび太の原動力となったようでした。

自宅の研究室にて...。

あれからどれくらいの時間が経ったのでしょう。 しずかちゃんが研究室に
呼ばれました。絶対に入ることを禁じていた研究室でした。 中に入ると夫
であるのび太は微笑んでいました。 そして机の上にあるそれをみて、しず
かちゃんは言いました。『ドラちゃん...?』 のび太は言いました。

しずか、こっちに来てごらん、今、ドラえもんのスイッチを入れるから』

頬をつたうひとすじの涙...。

しずかちゃんはだまって、のび太の顔を見ています。 この瞬間のため、ま
さにこのためにのび太は技術者になったのでした。 なぜだか失敗の不安は
ありませんでした。こんなに落ち着いているのが変だと思うくらい のび太
は、静かに、静かに、そして丁寧に、何かを確認するようにスイッチを入れ
ました。
ほんの少しの静寂の後、長い長い時が繋がりました。

『のび太くん、宿題は済んだのかい?』

ドラえもんの設計者が謎であった理由が、明らかになった瞬間でもありまし
た。あの時と同じように、空には白い雲が浮かんでいました。

おしまい。
 

元祖最終回 のび太植物人間説はこちら